0008

玉之浦

 0008

・玉之浦
Tama-no-ura 長崎・五島
【花】 濃い紅地に白覆輪の一重、筒〜ラッパ咲、筒しべ、中輪、1〜4月
【葉】 長い楕円形、中型
【樹】 立性、枝はやや垂れる。
【来歴】 1970年代

長崎県五島列島福江島玉之浦町の野生のヤブツバキ林より選抜。

藤田友一の発表、県ツバキ協会の命名・発表。

江戸時代の文献に「縁白」と記載のあるツバキは存在したが、現代これに見合うツバキは絶滅した(この他にも絶滅したとされている品種は多くある)。しかし、1970年代、偶然発見され、県ツバキ協会の展示会に出品され幻のツバキとして騒がれたとある。その後、原木は業者や多くのファンに枝を採取され裸同然の姿で枯死したという。

 しかし、その行為もあって今日では誰でも簡単に入手でき(当時は需要も多く高価ではあったが)、日本だけではなく、世界中で‘玉の浦’は栽培されている。はたして、‘玉の浦’にとって世界中に自分を繁殖できたことがよかったのか、東シナ海を臨むヤブツバキ林で人知れずひっそりと咲いているのがよかったのか、そのこたえは人々の心の中にある。

 しかし私は、紅一色のヤブツバキの中にはえる‘玉の浦’を見てみたかったものだ。

【欠点】 ‘玉の浦’は申し分ない魅力を持った花ではあるが、欠点も多い。逆にいえば欠点は多いが、よい花はその欠点を一瞬忘れさせてくれるすばらしさがある。

最も有名な‘玉の浦’の欠点は、覆輪幅が安定しないことであり、致命的な欠点である。初めての苗を購入し、いざ咲くと幻滅感をあじわい、そのときのイメージから逃れられない人も多いだろう。そもそも安定しない品種なのである。しかしながら、すばらしい覆輪にもなることを忘れないでほしい。なお、樹勢が強い場合や肥料が効きすぎていると覆輪幅は狭くなるといい、実際そのようだ。

さらに、‘玉の浦’の花形も開花初期は、ある意味理想とされる筒〜ラッパ咲きではあるが、その後すぐに花弁は反曲し見苦しくなるとあり、つまり、一般に言う「花形がくずれやすい」ツバキである。確かに、近年の、花が咲き終わり落ちるまで「花形が崩れない」品種を求める傾向には見合わないが、そのぶん、‘玉の浦’は、一瞬の輝きを見逃さずあじわうことが大切であると感じる。

もう一つ、栽培していく過程で気づくことであるが、‘玉の浦’は樹形が悪い。樹勢は強く、指し木苗も安心なのだが、枝が細い。しかも伸びもよいので自然と枝垂れやすい。私は、路地上で2本栽培しているが、落葉広葉樹のマユミの根元に植えてある‘玉の浦’は2mほど高さはあるが、剪定を一度もしたことがなく、よく「枝垂れ」ている(覆輪幅も狭い)。もう1本は、日当たり、排水ともによく、肥料に乏しいところに植えている(しかしこちらは上記写真のように白覆輪がよく入る)が、こちらも水平〜それより下の角度に枝が伸び、同時期に植えた‘三河数奇屋’との対比が一目瞭然である。子苗のうちから矯正を心がけたい。

このように、‘玉の浦’は欠点が多いがすばらしい、難儀な銘花である。

【遺伝】  ‘玉の浦’の品種上の特徴は遺伝性があり、優性遺伝することも多い。実際、‘玉の浦’の実生は数多く作出されているが、それらを観察していてわかることだが、良い特徴も、悪い特徴も遺伝するようだ。

 良い特徴としては、なんと言っても「白覆輪」に遺伝性があることだ。これはすばらしい事実である。「覆輪」という形質は、ツバキ界が求めている事柄の一つであるといえる。元来、幻とされていた「白覆輪」(この場合、多くの白覆輪ツバキ、例えば‘沖の波’‘日本の誉’などの覆輪とは形質がまったく異なるため、分けて考える)が、交配により、多くの品種が作出可能であるということを意味する。が、しかし、同時に、「白覆輪幅不安定」も遺伝する。面白いことに、母種の‘玉の浦’の幅を超える深い白覆輪のはいる品種から、せいぜい糸覆輪にしかならない品種とさまざまなので、注意されたい。牡丹咲の品種では、唐子弁や旗弁にも白服輪が入るということも面白い。

 また、一部の‘玉の浦’交配種は、花の色が‘玉の浦’の紅色とは異なる濃桃色などの品種もあるが、それでも白服輪は入っていることも面白い。

 残念なことに、前述の「‘玉の浦’の欠点」は多くの場合、優性遺伝してしまう。

 1993年にアメリカのNuccio(ヌッチオ)農園から日本へ導入されたいわゆる「タマシリーズ」を全部集めてみるとよくわかる。品種によって覆輪幅の安定度はさまざまであり、樹形も、支柱が必要なものから、いらなさそうなもの。さらに厄介なことに「タマシリーズ」は、樹の年数や栄養状態、気候などによって、牡丹咲の品種は単に八重になったり(旗弁などの尾蕊が弁化した部分は元に戻りやすい)、一重のようになることも多い。

 日本では、久留米地方で、八重咲種が作出されている他、やはり、最近の一重ブームにのっとり、各地で花形、樹形、覆輪幅ともに良い品種を作出したいがため、いろいろ試されている。発売中のものも多いため、‘玉の浦’と比べてみても面白いだろう。中には、『ツバキ・サザンカ名鑑』(日本ツバキ協会編1998)には記載されていない品種も多いので注意が必要である。

 現段階でいえることは、‘玉の浦’系にさらなる品種改良は、当然、必要であるということだ。

【備考】 枝変りと推測される品種に‘弁天玉の浦’があり、葉は不定形な弁天葉で、深緑と黄緑の構成であるが、はいりかたも乱れ、外斑、中斑、二重にもなり面白い。もちろん、花には「白覆輪」が入る。なお、‘弁天玉の浦’は、『ツバキ・サザンカ名鑑』(日本ツバキ協会編1998)には記載されず、同書198ページに記載のある‘バッテン玉の浦’とは、別種のようだ。注意されたい。

一部の‘玉の浦’交配種は面白いことに、名前に「玉」か「Tama」を冠している。わかりやすいし親しみもある。

【参照】 『園芸世界19942月号』もしも椿を選ぶなら(記事:桐野秋豊、改良園通信販売部)

The Illustrated Encyclopedia of Camellia (Stirling Macoboy,1998)

『椿 Camellia Photo Collection(京都書院アーツコレクションR、木村智編、1997)

『ツバキ・サザンカ名鑑』(日本ツバキ協会編、誠文堂新光社、1998)

     

2002.03.16.記