Camellia
raticulata
トウツバキについて
Camellia
raticulata トウツバキについて 私はいろいろな資料を読んでいますが、‘トウツバキ’について統一見解はなされていないようです。というのも、そもそも研究対象であるトウツバキの原種というべきものが定かではないためらしいです。自生種とされている種は、栽培種が野性化したものであるという意見もあり、油を取るために栽培されている品種のC.Reticulata Simplex(ヤマトウツバキ)が野生化したとか、その他の原種の種間雑種により出現した(C. saluenensis(サルウィンツバキ)とC. pitardii var. yunnanica(ピタルディ・ユンナニカ)とか諸説さまざま。しかしながら、ツバキ品種の中でもかなり重要な品種なのですこし、まとめてみました。 |
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【学名】 | Camellia
raticulata(カメリア・レティキュラータ)。これはいわゆる‘トウツバキ’を広くさす。 raticulataともあるのは、葉脈の網状がはっきりきわだって見えることからきた名とある。1827年にジョーン・リンドレーによって位置付けられた。そのときの個体は‘Captain Raws(キャプテン・ロー)’で、歴史上はじめてヨーロッパに紹介された種であった(渡来は1820年)。 |
【和名】 | 漢字を使わずカタカナで「トウツバキ」とあらわす。 「トウツバキ」のように大型の花をつける種は、花を鑑賞するためによく栽培されている。「トウツバキ」の名は、数ある中国原産の種の中でも最大級の花で、園芸品種も数多くあることや、逸早く日本にもたらされたことなどから、中国ツバキの代表として「唐」のなで呼ばれたのではないだろうか。 中国には、ツバキ属の種が約250種あるといい、そのほとんどは園芸価値はないという(花が地味というのが主な理由)。しかし、一部の種は園芸価値のみならず、葉や新芽から茶を精製するものや、種子から油が採れるものなど、生活・文化的に有用植物とされるものがある。 余談で、最近はあまり使われないだろうが、「カラツバキ(唐椿、韓椿)」、「チョウセンツバキ(朝鮮椿)」、「ナンキンツバキ(南京椿)」の別名がある。混乱してしまうので、使わないほうが良いだろう。 |
【中国名】 | 「雲南山茶花」 中国でツバキ属をさす語は「茶」で、葉や新芽をつんで茶にするものを「茶」、種子から油を生成するものを「油茶」、花を鑑賞するものを「茶花」とよび、全体をまとめて「山茶」とよんでいるという。 「椿」を「ツバキ」とあてたのは漢字が伝わってからかなり後のことで、中国から漢字が伝わったときには「ツバキ」は、「海を渡ってきた、ザクロに似た実のつく植物」ということで「海石榴」の漢字が当てられた。中国で「椿」という漢字はツバキ属を指す語ではなく「チャンチン」という別の植物をさす。日本でも、16世紀に完成した『本草綱目』によれば、「海石榴」ではなく「山茶」と呼ばれるようになったとある。 「雲南山茶花」の雲南とは、トウツバキの野生種の自生地をさす。標高2,000mに近い大地状の都市、昆明、大理では広く栽培されているとあり、中でも昆明では古木が数多くあるとあります。野生種(とされているもの)が生えているのもそのあたり。 |
【花の色 |
多くのトウツバキ系園芸品種は紅、桃紅、桃色、が主流で、やや朱色、サーモンピンクの品種や紫を帯びる品種も多い。ジャポニカ系の花色とは異なり、特有の発色をする。 白、純白色の品種が極めて少ない。また、縦絞りの入る品種も極めて少ない。ウイルス斑の入る品種は比較的少ないがあり、‘コーネリアン’が代表であるが、ウイルス斑を移すことも可能である。 花弁の質もジャポニカ系とは異なるし、やはり独得である。面白いことに写真写りが悪く感じる。というのは、写すと白が勝ってしまうのだ。光の反射が激しいのか、弁の色素がある細胞の層が薄いのかよくわからないが、ジャポニカ系よりさらに光の加減が難しい。 「王帯(玉帯)」と呼ばれる筋が弁中央に入る品種が、蕊が無いほどの花弁の多い品種(千重咲きや牡丹咲き)に多い。本来蕊がある部分から出ている花弁に入り外弁には入らない。これは、「縦絞り」や‘オランダ紅’などの「筋」とは異なる形質であり、トウツバキ状芯が弁化したなごりであるように思われる。筋は、はっきりと入るものから、色の違いがあまりわからないものまでさまざまです。 「銀」の霜降りがはいる品種がある。‘リレット・ウィットマン’が代表的で、弁の中央にかけていわゆる「吹掛け絞り」よりももっと細かく、独得の弁質になる。具体的にはサザンカ‘勘次郎’などの弁中央の白いぼかし帯に似ている。「銀」という表現は中国で用いられているものであり、中国品種の中でも「銀」の文字を含む品種が多数ある。 |
【花の形 |
多くのトウツバキ系園芸品種の特徴は「立弁」、「波打ち弁」であり、これらがあわさって豪快な「牡丹咲き」になる。もちろん、立たない、波打たない品種もあり、それらと対照しての呼び名です。 「立弁」とは、内弁が雄蕊をかこむように立ち上がる状態のことで、花の開き始めは素直に開くのですが、その後内弁が立ち上がりはじめ、豪快になっていきます。 「波打ち弁」とは、弁が波打つことです。そのままです。トウツバキの「波打ち弁」は大雑把に波曲するものが多く、「立弁」とあわさり、より豪快な感じになります。 これらの多くの品種は「八重咲き」であり、「八重牡丹咲き」と表すことが多い。 |
【花の大きさ |
大きく豪華になる品種が多い。というのも、それが目的で品種改良がおこなわれてきたことによる。ジャポニカ系では少ない極大輪サイズも多くあり、20cmにもなるものもある。また、立弁と波打ち弁があわさり厚みが出て、枝先に数個ついた花が満開になると、たまのようになる。 しかし、蕾の付き過ぎなどによって蕾の肥大が悪い場合は、貧弱な花になってしまうこともある。 |
【雄蕊】 | 雄蕊(おしべ)は、筒蕊や割蕊や散り蕊などが多いが、花粉の出る葯の感じがジャポニカ系とは異なる。ジャポニカ系のように鮮やかな黄色の葯や花粉になることは少なく、トウツバキ系はすぐに茶色く変色する。このことはトウツバキ系がジャポニカ系に劣る大きな欠点の一つとされ、一般的にみばえがわるいとされ嫌われる。またこの形質は種間交配を行っても残ることが多いようで厄介である。もちろん鮮やかな黄色も出るが、日本の気象条件では難しいという。また、品種にもよる。 これらの特徴から、トウツバキの雄蕊をあらわす場合、「トウツバキ状芯」とあらわした方がわかりやすいと感じる。ユキツバキ系のものを「ユキツバキ状芯」とあらわすように。 |
【雌蕊】 | 雌蕊(めしべ)については、子房は有毛である。したがって、果実にも微毛が生える。日本の気象条件では交配は難しい。もちろん、千重咲きや牡丹咲きなどでは、花柱、柱頭までも弁化し、結実不可能なものも多い。 |
【葉】 | 葉脈が目立ち、艶(つや)がない。 もともと学名のraticulataというのは英語で網状の意味のreticulateから葉脈の網状がはっきりきわだって見えることからきた名とされている。ジャポニカ系にくらべたしかに葉脈がはっきりする。また主脈に沿って葉の表面が凸凹になる品種も少なくない。 また、こちらの方がはっきりした特長で、ジャポニカ系にくらべ艶(つや)がない。ツバキの特徴である艶がないためにジャポニカ系ばかり見ている人にとっては異様である。ビロード状とまではいかないが、艶があるともいえない。もちろん、交雑種などでは艶もあるものもあるが、中国産種などの純血統とされる種では艶はない。 葉の厚みや葉形は品種によりまちまちで、分類するなら、ジャポニカ系のような分類法で分けられる(大型、中折れ、波曲など)が、艶のことや葉脈のことなどを付け加えるとわかりやすい。 |
【樹】 | ほとんどの種が、不恰好である。 ジャポニカ系とは違い、トウツバキ系は枝振りは粗く、葉は比較的まばらにつく。そのため、この不恰好な樹形を改良するため、他の血統種との交配が進んでいます。しかし「ヤブツバキ」の優れた樹形とは、すぐに見分けがつきます。 いわゆる「立性」か「横張り性」かときかれれば、どちらかといえば「立性」のものがほとんど。多くの種はコンパクトに栽培するのは難しいのではないかと思われます。 (種間雑種の項目にも関連記事あり) また、有毛種なので微毛が生える品種も多い。 |
【古木】 | 高さ15mくらいになる。日本には少ない。中国雲南省昆明には、トウツバキの園芸品種の古木が多く残っているらしい。これらの種やこれらの種同士の実生がトウツバキに相当するようです。 |
【耐寒性】 | ジャポニカ系のように強くはないが戸外でも越冬できる。雪にうたれても大丈夫そうだがさすがに長期間雪に埋もれ続けるとどうなるかわからない。現産地では、海抜2,000mに位置しながら積雪を見ないという。 むしろ、塩分に弱いようです。伊豆大島の都立大島公園での路地ものは、あまりよくなっていなかった。しかし、大阪の服部緑地都市緑化植物園など内陸地ではよく育っているように見えた。 |
【種間雑種】 | いわゆる‘トウツバキ’は、それ自体、ジャポニカやサルウィン、ピタルディー・ユンナニカなどの雑種であるらしく、また、近年に作出された品種でもさまざまな種との種間雑種が作出されています。ジャポニカ系はもちろん、サルウィン椿とジャポニカ系との雑種の総称ウイリアム・シー系(williamsii)、サザンカ系、最近ではグランサムツバキや金花茶との交配種も作出されています。 種間雑種の作出はトウツバキがアメリカやオーストラリア、ニュージーランドに持ち込まれてから、盛んになりました。種間雑種が盛んに行われるようになったのは戦後のこれらの国々で、日本では1980年代になってからやっと多く行われ作出、発表されるようになってきたようです。 その目的はやはり、より多彩な花を楽しみたいがためですが、一般にJaponica系に劣るとされる樹形等を改善して、ツバキの木にあの豪快なトウツバキの花を咲かせたいがためにも品種改良をするともあります。海外ではより豪快な花を求める傾向にあるようです。また、花の色も少し違った色(藤色や朱色)が出ることも多く、斬新な色を出したいがためや、サザンカとの雑種である‘Show Girl(ショー・ガール)’は少し香り、いろいろなツバキと交配できるため、そこから豪快な香りツバキを作出したいためにも品種改良は多く行われているようです。 海外でのツバキ品種の分類において、トウツバキ系は「トウツバキ系とトウツバキ系交雑種」として一つにして分け、「ジャポニカ系」、「サザンカ系」、「その他の種間雑種」、「ワビスケ系」、「肥後系」などといった具合に分類していて、名鑑などにも分けて記載があります。 また、最近は複雑な種間雑種や3種間以上での交配も行われており、どこかでトウツバキ系品種の遺伝子を含んでいてもその形質が現れないものも多いようで、一見、何かわからないものもあります(花形、樹形など上記トウツバキ系の特徴に当てはまらない品種)。この場合は、もう、トウツバキ系とは呼ばず、単に種間雑種品種といった方が、けじめがついてよいかもしれません。 日本の気象条件下では結実しにくく、花粉のでも悪いので、ジャポニカ系に比べ品種改良は困難である。 |
【繁殖法】 | 一般に「接木」をして増やします。 「トウツバキ」は挿木では根付きにくく、一般に接木をして増やします。そのため、どうしても苗木の価格が最低2,000円 (接木1年) 〜となり、また、樹性の特性上、枝や新芽の数がJaponica系より少なくなるため、数も多く生産されません。そのため、入手は比較的困難でしょう。接木技術が今よりも良くなかったひと昔前や、さらには江戸期では、トウツバキ系はそうとう入手困難だったといいます。ちなみに、一般に、接木といえば、サザンカ・カンツバキの「勘次郎」によく接がれているらしいですが、ツバキに比べやや親和性が弱いという例がと記されている本もあります。 しかし、他の血統の種との種間雑種のものは、比較的挿木でもつくものもあり、挿木苗で売られていることも多くなりました。値段も手ごろです。しかし、接木苗に比べて弱くなるので注意が必要です。植替え期、その後の管理等は注意しましょう。 |
【参考】 | 週刊朝日百科『植物の世界』77号(朝日新聞社1995年10月8日) Stirling Macoboy, The Illustrated Encyclopedia of Camellia 1998 『つばき』(安藤芳顕著、保育社、1971年) イラスト園芸シリーズ『ツバキ』(桐野秋豊著、家の光協会、2000年) |